養生訓の中に「酒は天の美禄(びろく)」という言葉があります。程よく飲めば陽気を助け、血気を和らげて食物の消化を良くし、心配事を取り去り興を生じてたいそう利益になるという意味です。確かに適量のお酒はストレスを解消し、血行が良くなり、痔疾にも効用があります。
いぼ痔の治療をしていた患者さんの中に、新年早々慌てて当院に駆け込んできた方がいました。新年会でお酒を飲み過ぎ、翌日の排便後におしりが激痛に見舞われたそうです。診察したところ、いぼ痔が肛門の括約筋にはさまれて「嵌頓(かんとん)痔核」を起こしていました。このようにお酒の量が多くなる忘新年会シーズンには、疲労や睡眠不足も重なって、痔の患者さんが増える傾向にあります。
お酒、つまりアルコールには神経をまひさせ、血液の流れを良くする作用があります。そこで、痛みから解放されるため、ついつい深酒に陥りがちの人も。ところが、多量の飲酒で血行が良くなるのは肛門部の動脈ばかりで、静脈の働きはそれに追いつかず、血液がたまり、うっ血を引き起こしてしまうことが少なくありません。そのため、翌日にはおしりに激痛が走ったり、排便時に大出血するといった反動が現れる場合もあるのです。
お酒はまさに「程よく飲めば益が多く、度を過ぎれば損失が多い」飲み物。大切なのは自分の適量を知ること。できれば、ほろ酔い加減でストップするのが理想です。
「飲酒・色欲を慎む」ことの大切さは、養生訓でも説いています。そうすれば、痔はもちろん胃腸や肝臓などにも負担をかけずにすみ、「百薬の長」としての効能を十分に発揮することが出来るのです。