第13話 高齢者の手術  安全性高まり85歳でも 

朝から季節外れの名残雪が降っていたその日、顔色のすぐれない小柄な男性のお年寄り、Aさん(70)がある病院の紹介状を持って来院しました。「手術してもらえませんか!と言って、私に差し出した紹介状には「病名は進行性胃がん、他臓器転移有り、根治術不可能にて姑息(こそく)術施行、現在自宅療養中。肛門痛が強く、本人が貴院にての手術を強く希望しておりますので、脱肛の手術をよろしくお願いします」と書かれていました。Aさんの年齢や、病気で体が衰弱していることなどを考えると、危険性が高く、私は手術をすべきかどうかためらいました。しかし「少しでも長く快適な生活を送ってほしい」と思い、手術することに決めました。

昨年の当院における70歳以上の高齢者の手術は全体の4.4%、65歳以上では8.8%もいます。これまでの最高年齢は85歳。高齢者に対する手術は、肛門科でも増えています。このように最近では、年齢とあまり関係なく、安全に手術ができるようになりました。それだけに、本人が希望するなら、必要に応じて手術をしたいと考えています。当院には、脳出血や脳梗塞で半身付随の人、痴ほう症、目の不自由な方など、様々な障害のある人たちが来院します。少しでもこうした人たちの痛みを取り除き、QOL(生活の質)を向上させるためにも肛門痛は大きな課題なのです。

ところで、Aさんですが、私が手術を決意した矢先、体調を崩しほかの病院に再入院したため、今のところ手術は延期となっています。あれから5ヵ月。ナナカマドの赤い実が急に目立ち始めました。その後Aさんはどうしているのか案じる日々です。


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