「20年前、脱肛の手術をしました。手術後5、6年の間は良かったのですが…」とCさん(65)=男性=が診察室で話し出しました。Cさんの肛門は手術後にまた脱出し、出血のほか、粘液も漏れて気持ちが悪いそうです。「手術で悪いところは全部取ったと言われたのに」。診察の結果、Cさんの肛門は典型的な「ホワイトヘッド肛門」と言われる症状で、手術の後遺症で直腸粘膜が脱出していました。「薬では治りません。もう一度手術をしましょう」と、再手術を勧めましたが「もう嫌です。あんな痛い思いをするなら、もう二度と痔の手術を受けたくありません」と、初めは承知しませんでした。
Cさんに「痔の手術=痛い」という印象が今でも強く残っているのは、その昔の手術法(ホワイトヘッド手術)によるものと思われます。その方法は、痔と一緒に肛門の全周を取ってしまい、直腸と肛門の縁の皮膚を縫い付ける手術です。手術時間も長く何ヶ所も縫い合わせるので、術後に激しい痛みがあります。この方法では肛門の機能として必要な健康な組織まで切り取ってしまうので、術後の経過が思わしくないこともあります。現在ではやってはいけない手術法と言われますが、以前はしばしばこの方法が用いられ、その結果苦しんでいる人がたくさんいます。しかし、現在はこの後遺症を直す手術法があります。後遺症に悩んでいる方は、ぜひ一度専門医を受診してください。
また現在は、脱肛に行われている「結紮(けっさつ)切除術」という方法は、正常な部分まで取り過ぎることがないので、肛門機能に障害を与えません。手術が簡単なこと、出血が少ないことが特徴ですので、心配はいりません。