「今朝トイレに行ったら、便に血が…」と心配そうに話し出した会社員Fさん(45歳)。内視鏡で検査することを勧め、検査してみた結果、肛門(こうもん)から約30㎝のS状結腸に直径1㎝のポリープを発見。内視鏡を用いてポリープを摘出してみると早期がんでした。
しかし、これで治療は終わりです。
「早期がんでしたよ。完全に取りきれてますからもう大丈夫ですと告げると、Fさんはほっと胸をなでおろしました。
2010年には大腸がんの死亡者が、がんの部位別でトップになる予測があります。そうした事情から、1992年度から老人保健法に基づくがん検診に大腸を加えるようになり、その結果は徐々に現れ始めているようです。
しかし、この検診による大腸がんの発見には限界があります。便検査では、がんの部分が必ず出血するわけではなく、早期がんの半分も検出できませんし、進行がんも20%見逃しているという報告もあります。
内視鏡による検査では、大腸の内側の壁を直接診ることができるので、Fさんのケースのように、その場で診断、治療することができる大きなメリットがあるのです。当院では「出血の原因は痔(じ)」と勝手に判断して、大腸がんを見落とさないように注意し、定期的に大腸内視鏡で検査しましょうと積極的に呼び掛けています。
当院の肛門疾患の外来患者に対しての3,000例の内視鏡検査の調査データから、肛門に疾患のある人は健康人と比べ大腸がんにかかっている割合が3倍高く、50歳以上の直腸がんでは5倍高いということが分かりました。
この調査結果から、痔と大腸がんの発症との因果関係が推測できます。痔があると排便が苦痛になり、どうしても便秘がちになります。こうした曰常の排便状況ががんに間接的にかかわっています。
しかし私は、痔そのものが大腸がんの直接的な原因になるのではなく、痔のために生じるさまざまな不便、不快がもたらすストレスとの関連を問題にしたいのです。
心や体のひずみであるストレスが人体を守る免疫細胞の働きを弱め、がんなど生命にかかわるような病気を引き起こすことが分かってきました。
排便は、本能的な快感の一つです。それが、痔によって不快なものに変わるとしたら、やはりそのときのストレスは大きいはず。とすれば痔も大腸がんの大きな原因と考えるべきでしょう。