筋力低下による便失禁 

「恥ずかしいことじゃないんですよ。年をとるとみんな多かれ少なかれ、おしりの具合が悪くなるのです。おばあちゃんだけではなく、私もいずれそうなるのですよ」と言うと、おばあちゃんはうつむいたまま、小さくうなずいてくれました。

同居しているお嫁さんに付き添われて来院したこの女性Dさん(76)の場合、「知らないうちに便が漏れて下着を汚してしまい、一年前から生理用品が手放せなかった」とのこと。かといって病院にはかかりづらく、そのまま一人で悩み、放置していたそうです。Dさんは肛門(こうもん)の筋力低下による便失禁でした。

便失禁は患者さんにとって耐え難い症状ですが、しゅう恥心と、命にかかわらないという理由から放置されている場合が多いようです。

しかし放置しておくと、恥ずかしさと苦痛のため無気力となり、友人や家族から見放されることにもなりかねません。Dさんのように付き添ってきてくれる人がいるのは恵まれていることかもしれません。

さらに、高齢者はさまざまな原因で慢性の直腸性便秘症になりがちです。直腸に固い便がぎっしり詰まり、おしりから漏れることがあるのです。これは寝たきりの高齢者におきやすい病気です。

このように、人間は年を取るにつれ生理的、肉体的衰えが生じてきます。この衰えはおしりにとっても例外ではなく、ごく当然のことなのです。ですから、恥ずかしがることもありませんし、適切なケアの仕方を本人、周囲の人々が理解しそれを実行していけばいい のです。

また高齢者に対する手術は肛門科でも増えています。最近では、年齢とあまり関係なく、安全に手術ができるようになりました。当院では高齢者のQOL(生活の質)を向上させ「少しでも長く快適な生活を送っていただきたい」と、本人が希望するなら、必要に応じて手術をしたいと考えています。

当院の高齢者の手術例は、昨年一年間では七十歳以上の高齢者では全体の4.7%、六十五歳以上では9.9%の割合を占めています。そしてこれまでの最高年齢は女性の八十五歳でした。

いずれにしても、これから四人に一人が高齢者となる社会を迎え、おしりの悩みは今後私たちのだれもが経験することかもしれません。その時に自分なりに冷静に対処できるでしょうか。

人にとって排せつという行為は一日も欠かすことのできない大切な問題です。本人はもちろん、周囲の理解、基本的な知識を持って、みんなで「豊齢者社会」を目指していきたいものです。


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