1. 「しない」し「できない」
便秘で悩んでいる子供が増えています。いくつもの原因が考えられますが、決して本人のせいばかりではないようです。見過ごしてしまいがちですが、学校教育の現場にも、便秘の子供をつくる要因が潜んでいます。前号の「うんちの話」では、子供たちの便秘はライフスタイルと排便リズムの乱れにあると紹介。夜更かし、朝寝坊、睡眠不足で、朝ご飯を食べないという生活リズムの乱れが、子供たちの排便リズムを不規則にし、朝の限られた時間の中で「シャンプーと髪のセット」を優先するあまり「朝食」「トイレでうんちをする」ことが二の次となっている現状を指摘しました。
今回は「家でうんちをしない」子供たちは、学校では「できない」という話です。本題に入る前に、あるデータを紹介しましょう。カゴメの調査ですが「うんちをどこでするか」という問いに対し「学校のトイレで」と答えたのはわずか1.4%です。家でもできず、学校ではほとんどの子供がしていないというのが実態で、これでは便秘になってもおかしくありません。
2. 友達にバレるといじめの標的
それではなぜ、子供たちは「学校でうんちができない」のでしょうか。
まず第一に、家庭のトイレ環境と学校のトイレ環境のギャップが大きすぎるということが挙げられます。ある調査によると、一般家庭のトイレは八五%が洋式で、そのうち30%にウォシュレットが普及していると言われていますが、学校では、各トイレに洋式を一個設置し、残りは和式としているのがほぼ共通のパターンで、洋式が約10%です。しかも、学校に洋式を設けたのは怪我をした子供への対応のためといいます。「洋式がいい」と答えた児童が60%近くに上っている現状とのギャップが、子供たちが学校で、「うんち」ができない理由の一つになっているのです。
また、「臭いを他人に嗅がれたくない」「大をしたことがバレてしまうと友達から冷やかされる」といった理由もあります。授業中に手を挙げて「うんちがしたい」と言おうものなら、即刻いじめの標的にされてしまいます。
一方で、休み時間終了のチャイムと同時にトイレに入り、大をする子供がいるそうです。当然、授業に遅れますが、やっぱり「友達に知られたくない」のが理由です。
さらに、学校生活にゆとりがないことも障害になっています。トイレに行こうにも、休み時間が5分か10分では無理。昼休みでも給食の支度や後片付けなどで、時間はありません。我慢に我慢を重ね、お腹が痛くなって保険室に駆け込まなくてはトイレに行けないのが現状なのです。子供の便秘が急増している背景にはこのような理由がいくつも考えられます。
昨年、当院が女性510人を対象に行った「便通の実態調査」では、便秘の発現期は「高校」「高校以前」で約60%もあり、やはり、ここに大きな問題点があると思われます。便秘は痔や大腸がんの原因になります。しかも、子供のころの便秘は、大人になっても続くケースが多いので要注意です。
3. 「ハード」と「意識」の改善が必要
ですから、教育現場では、このように子供たちが学校のトイレで「うんち」をできなくしている状況を取り除く努力をすべきです。
余談になりますが、札幌市立の中学(74校)、高校(8校)の女子トイレに昨年七月、流水音で使用中の音を消す擬音装置「音姫」が設置され好評です。女子は「他人に用を足すときの音を聞かれたくないという“乙女心”から、水を流しながら使用するためここ数年、水道使用料が2~3倍アップ。節水対策として札幌市教委が「音姫」の設置を決めたということです。(1995年10月には小学校の女子職員用トイレ204校にも設置済み)旭川市もモデルケースとして1996年度中に、二つの中学校に設置される計画があるそうです。このように、学校トイレの環境も徐々に改善される傾向にありますがまだまだ、道内の公立の小・中・高校では、特に配慮されていると思われるトイレは少ないと思います。
今後は「形態」「臭い」「清潔感」「空間(広さ)」などのハード面の環境改善とともに、「うんちをするという行為は決して恥ずかしいことではなく、楽しい行動なんだ」という意識教育を両輪とした啓蒙活動が必要です。10年、20年後「学校のトイレはどうあるべきか」を私たち大人は真剣に考え、学校のトイレ環境の改善に取り組んでいくことが必要だと思います。