日本では、「大腸がん」は毎年約8万人が罹患(りかん)しており、著しい増加傾向にあります。がんによる死亡数では、これまでは胃がんが最も多く、次が肺がん、大腸がん、肝臓がんという順位でした。しかし、いまや肺がんの死亡数が第1位となり、2015年には、男性では大腸がんが第3位、女性では大腸がんが第1位になると推定されています。大腸がんは、これまでの統計では罹患者の6割は手術で治せます。罹患者の数は、死亡数の約2.5倍で、死亡した数よりも実際にかかった人の方がはるかに多い身近な病気なのです。
一昔前までは、欧米人に多く、日本人には比較的少ないがんでした。増加の原因としては、食生活を中心とした「生活環境の欧米化」があります。特に動物性脂肪、たんぱく質の摂取量が増えたこと、食物繊維の摂取量が減ったことが主な原因であると考えられます。厚生省の国民栄養調査の結果をみても、日本人のエネルギー摂取量に占める栄養素別の構成では、たんぱく質はそれほど変化していませんが、脂肪が著しく増加しています。食品別にみると穀物類の摂取量が減少し、肉類、乳製品の摂取が増加しています。
がんの発生要因は、遺伝子的要因と環境的要因がありますが、大腸がんの場合、発生に作用する遺伝子的要因は、全体の約30分の1しかないと推測されています。大腸がんの発生部位では、右側の結腸で遺伝子的要因の作用が強く、左側の結腸で環境的要因が強く作用するといわれています。このことから、S字結腸や直腸のがんの発生率には、食生活などのライフスタイルの変化が影響していると考えられます。確実に増えている大腸がんですが、その特異な点は、他のがんと違い、非常に治しやすいことです。がんは薬では治りませんから、どうしても手術が必要です。しかし、早い時期に発見すればほぼ完全に治すことができます。
(平成12年11月8日 読売新聞夕刊 掲載記事)