大腸がんの予防として、最も現実的な方法は「前がん病変」ともいわれる「大腸ポリープ」を摘除することです。大腸ポリープの大部分は「腺腫」といわれる良性疾患ですが、この腺腫ががん化して大腸がんになることはよく知られています。腺腫の大きさが10ミリ以上であるとか、形が偏平で中心に陥凹があるような場合には「腺腫の中にがんが発生している頻度が高い」といわれています。しかし、一般的にポリープを見ただけでは、がんがあるかどうかを判定するのは難しいので、ポリープを摘除する必要があります。もちろん、すべての大腸がんが腺腫から発生するとは限らず、正常な粘膜から直接がんが発生することもあります。
いずれにしても早期がんの状態で治療を受ければ、大腸がんはほぼ100%治ります。ただ残念ながら、この大腸ポリープや早期がんの場合には、症状が全くでないことが多いので、どうしても大腸の検査を定期的に受ける必要があります。
大腸がんのスクリーニングとして、便潜血検査が行われます。これは、便の一部を採取し、その中に含まれるヒトヘモグロビンを検出する方法です。目にみえないほどの血液の混在の有無を見つけることができます。しかし、便潜血検査法も大腸がんを発見する方法として完全ではありません。あくまで無症状の人から大腸がんの疑いのある人を拾い上げる方法で検査結果が陰性でも陽性でも一喜一憂してはいられません。この検査で陽性となっても、そのうち大腸がんが実際にある人は2~3%程度、良性ポリープは10~15%程度であり、残りは痔などによる肛門周囲の出血性疾患である場合が多いのです。大腸がんの症状がはっきりしている人にはこの検査は意味がなく、注腸検査や大腸内視鏡検査を行います。
自分の健康は自分で守るしかありません。症状がなくても40歳を過ぎたら定期的に、少なくとも便潜血検査を行うことをお勧めします。大腸がんは、ある程度進行した状態でも適切な外科的治療で治る可能性の比較的高いがんです。しかし、確実に治る腺腫や早期がんの状態で発見して治療することが、大腸がんで死なないようにする最も確実な方法といえます。
(平成12年12月6日 読売新聞夕刊 掲載記事)