「正雄ちゃん(私の叔母は私のことを、いまだにこう呼ぶ)、今朝トイレに行ったら、肛門に針が刺さったような痛みが走って、我慢できなくて…」。診療室に入って来るなり叔母は半べその状態。いすに座ることもできません。「どうしたの?」と言う私の顔を見るなり「タクシーに乗りながらも、痛くておしりを浮かしながら、やっとの思いでたどり着いたのよ。早く何とかして!」と訴えました。
肛門の痛みの原因は主に切れ痔、血まめ(血栓)、膿瘍の三つですが、そのほか魚の骨が肛門に刺さって激痛に見舞われるという例がまれにあります。叔母の場合は、三日前の夜に食べた2、3センチもあるソイの骨が排便の際、肛門に刺さったというのでした。ではなぜ肛門に魚の骨などが刺さるのでしょうか。こうした珍現象は中年の男性に多く見られます。中年の男性はお酒を飲みながら食事をする機会が多く、ついついお酒の量が増えて酩酊し、知らず知らずに魚の骨を飲み込んでしまい、それが肛門に刺さるというわけです(叔母の場合は、年のせいもあって、よくかまないで飲み込んだらしい)。こうしたケースを「肛門異物」と呼んでいますが、魚の骨に次いで多いのが義歯、縫い針、くぎなどです。口から入った物以外では瓶類、コケシといった物までありますが、時には「何でこんな物が」と首をかしげる物もあり、最近では、麻薬密輸に関連したものまで報告されるご時世になりました。
お父さんの酒の肴から麻薬関係まで、肛門の異物は以外に幅広く、それらからは社会情勢や人間模様までうかがえるような気がします。それにしても、物を食べる時はよくかみ、日曜大工でくぎなどをくわえる時は、飲み込まないように気を付けたいものです。