行内のOLから「ゲーリー・クーパー似」とうわさされる銀行に勤務するジロウさんは働き盛りの三十七歳。行内では将来を嘱望され、もてもての有能な銀行マンです。
ところが、仕事のストレスに加え夜の接待が続き、暴飲暴食をして下痢がちだったジロウさんはある曰、おしりにできた「おでき」が真っ赤にはれあがりました。熱も38.9度ほどあり、くしゃみをしただけでも飛び上がるほどの激痛ということで当院を受診。
実はジロウさん、おしりに「おでき」ができたのはこれが初めてではありませんでした。これまでに二度、外科を受診しています。しかし、猛烈サラリーマンのジロウさんのこと、切開して、うみを出してもらうと、はれと痛みが治まり、次の曰からは仕事ができたとい います。
このジロウさんのケースは「おでき」の再発ではありません。これは「痔(じ)ろう」と呼ばれる痔の一種の未治療です。いぼ痔や裂肛(こう)は主に便秘傾向の人に多いのですが、痔ろうは下痢がきっかけになることが多く、どういうわけか働き盛りの男性に多いのがこの病気の特徴です。
この「おでき」は、直腸と肛門の境にある肛門小窩(か)からばい菌が入り、化のうするのが原因です。肛門近くにできた「おでき」が自然に破れるか、メスで切開して膿がでると、一時的にはれは引きます。
その後、肛門小窩を入り口とし、うみが出た肛門の皮膚の傷を出口としたうみの管「ろう管」ができます。痔ろうが、別名「あな痔」と呼ばれるのは、このろう管の形に由来しています。
「仕事が忙しく入院はできないので、何とかお願いします」とジロウさんは懇願しましたが、それは無理な話。私は入院して手術を受けることを勧めました。
痔ろうの手術法は以前、肛門が変形したり、おしりがひん曲がったようになるケースもありました。しかし、医療技術が進歩した今はそんな心配はありません。最近では、肛門の機能を損なわずに治すことができます。
働き盛りの三十代、四十代の男性は要注意。暴飲・暴食、それに不規則な生活・ストレスが重なると、勢い下痢になりやすいものです。それを繰り返すうちに痔ろうにかかるというわけです。
最近、下痢はストレス性のものが増えてきています。現代は心の時代と叫ばれながら、依然仕事中心の社会で「終身雇用制の変化」「職場のコンピューター化」などいろいろなストレスの材料がサラリーマンの周りにあふれているのが実情。やはりこうした時流を乗り 切れる人ばかりではないようです。