男の子の手を引いて診察室に入ってきたお母さん。いすを勧める間もなくしゃべり出しました。「4歳ぐらいまでは、毎日必ずお通じがあり、1人できちんと用を足していました。でも5歳を過ぎた頃から、便秘気味で、便が硬くなっているのか、トイレへ連れていっても痛い、痛いと泣くばかりです。それなのに、パンツの中に便をもらすんです」。この子は6歳。私の問診にはほとんど母親が答え、子どもには一切口出しをさせません。子どもが何か話そうとしても、母親が途中でさえぎってしまいます。この子のケースは、ストレスが原因の「遺糞(ふん)症」でした。「遺糞症」は他人に自分の気持ちや考えをうまく伝えることができない小さな子どもにみられる一種の表現方法です。周囲に友達のいない環境で、母親の愛を一身に受けて、朝から晩まで干渉され、朝起きれば「トイレへ行きなさい」「ウンチしなさい」と強制されては、心が抑圧されていまいます。つまり、この子の病気のもとは母親がつくっているとも言えます。
「5歳になる女の子ですが、以前から便秘で困っておりました。最近は便が頻回に出るようになりましたが、パンツを汚して困ります」。これは便失禁の状態ですが、実は典型的な重症の「便秘」の症状なのです。便秘症の多くは便が硬くなったために肛(こう)門が切れて出血することです。また排便するときに非常に痛みを伴うことがあります。一層、便秘症が進むと、この女の子のように便失禁がおこります。これは肛門の手前の直腸に糞石ができるのが原因です。この糞石は少々の浣(かん)腸や下痢では出すことができません。そのため、上から来た便はこの糞石の周りをこすりながら、いつとはなしに少しずつ出て行く状態となるわけです。
便秘の原因の1つに、「ストレス」挙げられます。この子の場合もストレスが原因かと思います。この女の子は、お母さんが昼間いないという不安や心配が、ストレスになっていたのでしょう。5、6歳という、ちょうどお母さんに甘えたい時期です。スキンシップを十分に行い、気持ちを安定させてあげることが第一です。そして、もし子どもが便意を訴えたら、決して我慢をさせずにすぐトイレに行かせてください。食事も繊維質の多いものを食べさせ、便が出やすいようにしてあげることが大切です。