Q 六十九歳男性です。数年前から便秘気味で、排便は親指か人さし指大のものが三、四個出る程度です。排便後に液状の便が漏れ下着を汚すことや、豆粒大の便が便意を感じないまま漏れることもあります。腸の内視鏡検査では異常はなかつたのですが、医師から「肛門括約筋の締まりの緊張度が弱い」と指摘されました。治す方法はあるのでしょうか。
A ご質問の方は便秘と便漏れの症状がありますが、この二つは密接にかかわっています。私たちは下痢のとき、肛門を強く締め便が漏れないようにします。便は軟らかいほど漏れやすいからです。ところが、便秘でも便が漏れる場合があります。
健康なら、朝食をとると大腸が蠕動して便が肛門近くの直腸に移動します。直腸の壁に圧が加わり、便意として脳に伝えられます。肛門では肛門括約筋という輪の形をした筋肉 がトイレに入るまで便が漏れないように収縮します。
ここで我慢すると便が腸の奥に戻って再び水分が吸収され、便が固くなりウサギのふんのようなコロコロ便になります。これを繰り返すと慢性の便秘になり、ひどくなると便が 塊状になり、息んでも排便できない「ふん詰まり」の状態になります。
ところが、しばらくすると便の塊の一部が溶けだします。肛門を強く締めれば漏れないのですが、常に肛門近くに便がたまった状態だと、肛門括約筋が引き伸ばされ、便意を感 じなくなり、締まりも悪くなり、液状の便が漏れてしまうわけです。
肛門の機能は加齢でも変化します。当院の調査では男性七十歳、女性は五十歳ころから締まりが低下します。男性は豆粒大の便が漏れており、括約筋の機能と便意の感覚がかなり低下していると考えられます。肛門の締まりをよくする方法で最も手軽なものは「自己訓練法」です。肛門を五~十秒間締め続けてから緩める運動を十回行います。これを一 セットにして一日五~十セット行います。いつでも、どんな姿勢でもよく、他人に悟られずに行えます。
ただ普段から意識して肛門を締める人はいません。締めたつもりでもお尻の大臀筋にしか力が入っていない方もいます。そういう方は肛門に括約筋圧を測るセンサーを入れる「バイオフィードバック療法」があります。締め方を習得すれば自宅で効率よく自己訓練できます。
肛門に棒状の電極を挿入して約五分間、括約筋を刺激する「低周波電気刺激療法」もあります。低周波には括約筋の強化作用のほかに、肛門感覚を改善する作用もあります。
便漏れには我慢できずに漏らす切迫性便失禁と、男性のような知らずに漏れる漏出性便失禁があります。切迫性は自己訓練でもある程度効果がありますが、漏出性は低周波療法 を組み合わせた方がよいでしょう。