肛門(こうもん)漫遊の旅も今回でいよいよ最終回となりました。
この連載で私が述べたかったことは「人の一生はすなわち肛門の一生」ということ。人の生命と肛門とは密接にかかわっており、人間の健康と長寿のガキは、「肛門」にゆだねられているということです。
健康の3要素は「快食・快眠・快便」と言われています。いくら寿命が延びても、正常な便通が得られなければ、充実した老後を送ることはできません。”豊齢社会”の実現は、肛門の健康維持にかかっているといっても過言ではありません。糖尿病、高血圧、肝臓病などの生活習慣病の蔓延が社会問題化し、中高年者もライフスタイルの改善に積極的に取り組み始めたようです。糖分、塩分のとりすぎに注意したり喫煙を控えるなど、あらゆる角度から健康を求めているのは喜ばしいことです。
しかし、同じ生活習慣病のひとつである痔(じ)の予防に関しては、認識が甘いのが実情でしょう。
交通網の発達、労働の質的変化、生活の変化が進むにしたがって、痔を患う人が増え続けています。痔が「文明病」と言われるゆえんです。豊かさと便利さをもたらしてくれた「近代文明」が、一方では人間本来の生活を崩壊させ、肛門疾患の増加を招いているわけです。情報伝達システムの発達などによるビジネススタイルの激変、終身雇用制の崩壊など、社会の目まぐるしい変化にともなって人々のストレスも増大することで、今後痔はますます”猛威を振るっていく”に違いありません。肛門にとって現代はまさしく「受難の時代」なのです。
ですから、私たち肛門専門医も治療だけでなく、予防活動にも積極的に取り組んでいかなければならないと思っています。